孤独死をした遺体は時間が経てば溶ける、と耳にしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
特殊清掃の依頼は孤独死・孤立死の現場が多く、凄惨な状態の場合もあります。
特殊清掃業者が清掃作業を行うまでに、警察が現場検証を行っているため遺体が残っているわけではありません。
しかし、腐敗液や血液が混ざった体液がお亡くなりになった場所に残っており、室内には強い腐敗臭が染み付いています。
特に腐敗臭は一度かいでしまうと臭いが染み付いてなかなか取れなくなるほど強烈で、防護マスクや防護服を装着せずに入室するのは極めて危険です。
遺体が腐敗するというのはどういうことなのでしょうか。
当コラムでは、死亡した人間の体に起きる変化を説明しながら、腐敗した遺体がどうなるのか解説していきたいと思います。
人間が生きている間は、体内にバクテリア(細菌)などの微生物が侵入しても免疫機能によって体は守られています。
しかし、死後は免疫機能が停止してしまうため、微生物が体を構成しているタンパク質や脂質、炭水化物を分解し始めます。
この分解のことを「腐敗」と呼んでいます。
遺体の腐敗は胃や腸などの消化器系から始まり、体全体へ進行します。
この進行の過程で「腐敗ガス」が発生し、体内に溜まったガスによって体は膨張を始めます。
肉や皮膚が膨張に耐えられなくなると体液(腐敗汁)が体外へ流れ出しますが、この状態のことを「体が溶ける」と表現されています。
さらに細胞組織が破壊されて腕や足、胴回りなどの肉片が骨から削げ落ちてしまうことから、その様子が溶けるイメージを想起させるのかもしれません。
遺体が腐敗を始めると腐敗ガスや体液の臭いに引き寄せられて、換気扇の隙間などわずかな隙間からハエが室内に侵入してきて遺体に卵を産みつけます。
ハエのふ化は早く、1日たらずで生まれ一週間程度で成虫になるため、発見が長引けば体中や室内がウジ虫だらけになるのです。
遺体が溶ける早さは、季節も大きく影響しています。
人間の体は、亡くなれば消化器系の腐敗をはじめ、死後硬直や死斑などの死後変化が起こります。
死後変化の進行は、生前の栄養状態や疾患の有無だけでなく、外的な要因も大きく影響します。
特に影響を及ぼしているのが、「温度」と「湿度」です。
微生物は温度が高く湿気が多い室内では大量に増殖し、腐敗の進行が早まります。
微生物の繁殖に最適な温度は30~40℃で、まさに日本の夏は最適な環境といえます。
つまり、夏場にエアコンなどの空調機を使用していない状態で孤独死してしまうと、遺体の損傷は短期間で進んでしまうのです。
ほとんどの方は死臭をかいだことがないと思います。
筆者もそうです。
室内で腐敗している遺体は、発酵しすぎたチーズや、生ゴミが腐ったような臭いに近いといわれています。
当コラムを運営している特殊清掃プログレスのスタッフに、清掃現場周辺に漏れていた臭いを振り返ってもらうと、「それまでに経験したことのない臭いで、しばらくは脳に染み付いて忘れられなかった」と話してくれました。
防護服で完全防備していなければ、すぐにおう吐し、服や頭髪に臭いが付着してしまうそうです。
お風呂に入って何度も体や髪の毛を洗っても、脳が臭いを記憶して、しばらくは臭いが取れた気がしないと聞いたことがあります。
腐敗した遺体が臭いを放つのは、体内に存在する微生物や細菌が宿主(亡くなった方)の体を崩壊(分解)させながら放つ物質が原因です。
その物質とは、主にアンモニア・トリメチルアミン・インドール・スカトール・メンタチオール(メチルメルカプタン)・硫化水素・揮発性アミン・プトレシン・酪酸(ブタン酸)・吉草酸・カダベリン・プロピオン酸(脂肪酸)など、複数の悪臭成分です。
特にカダベリンとプトレシンは、ほとんどの動物が逃げ出すほどの悪臭を放つ成分として知られています。
参考サイト:京都大学野生動物研究センター
こちらのコラムもご覧ください
「死臭の消し方とは?自力で消す方法も併せて解説します」
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孤独死で亡くなっても遺体の発見が早ければ、たとえ遺体の腐敗が始まっていたとして溶け出す前に遺体を運び出せます。
しかし、特殊清掃を必要とするほとんどの現場では遺体の損傷が進んで体液が流れ出しており、遺体の跡が明瞭に見てわかる状態です。
この章では、溶けた遺体の現場をどのように清掃しているか説明します。
特殊清掃の現場は、除菌で始まり除菌で終わります。
除菌は現場の基本作業であり、それほど大切なのです。
腐敗した遺体には様々な病原菌やウイルスが存在しています。
それを体に付着させたハエやゴキブリなどの害虫が室内を動き回り、部屋全体に広めます。
そのため、現場ではまず室内全体に除菌剤を散布し、安全に清掃できる環境を作り出すことから始めます。
腐敗臭もひどいため、近隣住民に悪臭や害虫被害が及ばないよう、特殊清掃ではドアや窓は閉め切った状態で作業するのが原則です。
室内の除菌が終われば、遺体から流れ出た体液や血液で汚染された汚染物の処理を行います。
布団やカーペットなど、遺体の下や周辺にあった家財はひどく汚染しているため、慎重に取り扱わなければなりません
汚染物にも臭いが染み付いており、臭い漏れがないように梱包してから搬出します。
床や壁などに付着した体液や血液の除去作業を行います。
専用の薬剤を使用しても完全に除去できない場合は、解体工事やリフォームが必要になります。
孤独死の発見が遅れた場合、発見者でない限りは遺族が室内に立ち入ることはほとんどないでしょう。
通帳や印鑑などの貴重品を取り出したいと思っていても、特湯清掃が終わるまでは不可能です。
特殊清掃業者の多くが遺品整理も請け負っているので、特に現場が賃貸住宅などで作業完了を急ぐなら、業者に依頼すると良いでしょう。
完全に消臭・脱臭できているか確認します。
一時的に消臭できても臭いの元を完全に除去できていなければ、数日後に再び臭いが漂い始めます。
さらにハエなどの害虫がその臭いに引き寄せられて集まり出し、被害が再発します。
また、孤独死される方の約8割がセルフネグレクトともいわれており、室内がゴミで溢れていることが少なくありません。
そうした場合はゴミの撤去作業やハウスクリーニング作業も必要になるなど、現場の状況に沿ってケースバイケースで対応していかなければなりません。
高齢化が著しく進む日本。
独居老人数とともに孤独死も増加傾向にあります。
国土交通省の孤独死に関する統計データによると、2018年に東京都で発生した孤独死は5,513人に上っています。
1日に換算すると、東京都だけで14~15人もの方が孤独死で亡くなっていることになります。
発作や持病の悪化で誰にも知られないまま自宅でひっそりと亡くなり、臭いを放つまで放置されてしまう。
孤独死とは、誰もがなりうる身近な死として、新たな死に方と認識しておくべきなのかもしれません。
孤独死で遺体の発見が遅れると損傷が進み、体が溶け出して強烈な死臭を放つなど、凄惨な状態になります。
今回は「遺体が解ける」と表現されるような死後の体の変化と、死臭の原因について紹介しました。
死臭を放っている現場はリフォームや解体工事が必要になるケースもあり、特殊清掃業者に依頼しなければ対処は不可能です。
汚染された家財の処分から遺品整理や消臭・脱臭作業まで請け負ってもらえますので、現場の状況に応じて作業を任せるのが良いでしょう。
経験の浅い業者に依頼してしまわないように、ホームページなどで発信されている情報をしっかりと確認し、信頼できる業者を選択してください。