不動産運用を行う人にとって、孤独死問題は他人事ではありません。少子高齢化、単身世帯化が進む中、一人で死を迎える人は今後増加していくといわれています。
今回は孤独死が発生してしまった不動産を売却する際に気を付けておくべきことを詳しくご紹介します。
少子高齢化、単身世帯の増加、地域コミュニティの衰退、疫病の蔓延などが要因となり「孤独死が増えている」とよく耳にするようになりました。では、そもそも「孤独死」とはどのような定義があるのでしょうか。
実は明確な定義はなく、内閣府が公表している高齢社会白書に記載された表現では「誰にも看取られることなく息を引き取り、その後、相当期間放置されるような悲惨な孤立死(孤独死)」となっています。つまり、例えば一人暮らしの人が自宅で亡くなり、当日や次の日など、すぐに発見された場合は孤独死には当たらないとも捉えられます。
しかし、一般的には発見までの日数に関わらず「独居人の自宅での死」を「孤独死」と認識されている傾向があります。
その物件を借りること、または購入することに心理的な抵抗を感じるおそれのある状態を「心理的瑕疵」と言います。具体的には、近くに迷惑な施設や嫌悪感を持つ施設が建っている、指定暴力団構成員等が住んでいる、殺人事件や自殺、火災があった事故物件などがこれにあたり、本来あるべき住み心地を欠いてしまうことです。
事故物件とは「住居内で人が亡くなった」物件のことです。亡くなる理由としては「自然死(老衰・病死・事故死)」「自殺」「殺人」がありますが、全ての場合において事故物件として扱うかといえば、そうではありません。「自殺」や「殺人」の場合には事故物件扱いとなりますが、家族や知り合いに看取られながら「自然死」で最期を迎えた場合は事故物件扱いにはなりません。では、誰にも看取られず「自然死」で亡くなった場合はどうなのでしょうか。この場合は発見されるまでの期間で扱いが変わるようです。
死後、早期に発見された場合は「自然死」と判断され、事故物件にはなりません。明確に「何日以内」といえる基準はありませんが、過去に東京地裁で死後4日目に発見されたケースでは「心理的瑕疵に該当しない」という判決が出ました。しかし、その時の状態によっても判断が変わってくるようです。
死後から長期間経過し、臭いやシミの問題が起きてしまったようなケースでは心理的瑕疵の告知義務が生じ、事故物件としての扱いになります。
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不動産に心理的瑕疵がある場合、所有者には告知義務が発生します。
令和3年10月8日に国土交通省にて策定された「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」によると「自然死(老衰・病死・事故死)」は原則として告知義務はありません。
しかし、亡くなってから長期間発見されず、特殊清掃が必要になるようなケースでは告知義務が発生します。マンションなどでは「ベランダ等の専用使用が可能な部分」「共用の玄関・エレベーター・廊下・階段のうち、買主・借主が日常生活において通常使用すると考えられる部分」も対象範囲となり、ここで起きた事故死などは告知が必要になります。建物外で亡くなった場合は告知義務の対象外です。
告知する内容は「事案の発生時期、場所および死因」となっており、賃貸契約の場合は事案発生から3年間は告知義務が生じます。売買契約の場合はどれだけの期間経過しても告知義務はなくなりません。
事故物件はネガティブな印象から、通常の物件売却より相場が安くなります。自然死の場合で通常より1~2割程、自殺の場合は3割前後、殺人が起きた物件では5割程安くなる傾向にあります。しかし、買主側が孤独死をそこまでネガティブに捉えていない場合や、立地や環境が良いなど元々の物件の魅力が高ければそこまで売却額を下げなくても売れることもあります。できる限り良い条件で売却するためにも、この章では孤独死が発生した不動産を売却する際の注意点をご紹介します。
何よりも孤独死があった形跡が残らないよう、徹底して清掃を行うことが必要不可欠です。場合によっては特殊清掃や一部を解体して消臭作業を行うことなども必要になります。クロスや壁紙、畳、カーペットなどの取り換えやリフォーム、リノベーションも有効です。心理的な負の印象を少しでも減らすために、ご供養やお祓いを行うのも良いでしょう。
買い手と購入前提の話し合いを行い、希望を聞いて対応するのも良いでしょう。
事故物件でも不動産売買の流れは基本的に同じですが、扱いの得手不得手は不動産会社ごとにあります。事故物件を多く扱っている実績豊富な不動産会社に依頼するのが安心です。いくつか候補の不動産会社に物件の査定を依頼し、査定額や売買のための提案などを聞き、それらを鑑みて、どの不動産会社に任せるのかを決めます。一社に専任媒介契約で任せることもできますし、複数の不動産会社に一般媒介契約で任せることもできます。
仲介以外の方法として、不動産会社に物件を買い取ってもらうこともできます。この場合、仲介とは違い確実に売ることができるので「事故物件でなかなか買い手が見つからない」という心配がありません。しかしながら、一般的な売却額よりも価格は低くなります。ただ、リフォームやリノベーション工事は買い取った不動産会社が自社の販売方針に則って行うので、リフォーム費用などはかからずに済みます。
どちらの方法が良いのかは人によりますので、上記を参考に検討してみてください。
中には「更地になっていれば気にならない」という人もいるようです。事故物件の場合、事件・事故の内容や、建物の状況によっては更地にして建物をなくしてしまったほうが不動産の悪いイメージを軽減でき、高く売れる可能性があります。特殊清掃やリフォーム・リノベーション工事費用はかかりませんが、更地にする場合は解体工事・整地費用がかかります。これらを総合して検討し、自身の要望に合った方法を選んでください。
告知義務が発生する事案の場合、そのことを隠して売却するのはやめましょう。後々、買い手側がその事実を知った場合に多額の賠償金を支払わなくてはいけなくなります。また、告知義務が発生しない孤独死の場合でも、近隣の方などから人が亡くなっているという事実を聞いた買い手側が訴えを起こし、売り手側が敗訴した例があります。心理的瑕疵を感じる度合いは人によって様々です。お互いに安心して売買ができるよう、隠し事はやめて誠実に対応しましょう。
近年、増加している孤独死問題ですが、コロナウィルス感染症の影響も受け、さらに増える一方です。国や自治体による早急な対策が求めれられる状況ですが、今後は孤独死が起こり得ることを想定した不動産運営も必要になるのかもしれません。
令和3年10月からは告知義務の発生する事案や期間など、具体的なガイドラインも決められました。所有する不動産で孤独死が起きてしまった際には、このガイドラインをよく確認し、売却時にも誠実な対応を心掛けましょう。また孤独死が起こらないように、そして起こってしまっても早期発見できるよう、日頃から入居者の方とコミュニケーションを取ることが大切です。