突然「親族が孤独死した」という連絡が来たら、誰もが驚いてどうすればよいのか分からず困ってしまうと思います。しかし、これは決して特殊な例などではなく、現代社会においては誰にでも起こり得ることなのです。当コラムではそのような場合にどのような手続きが必要なのか、そのために知っておきたいことなどを詳しくご紹介します。
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元汚部屋出身の整理収納アドバイザー。テーブルの上には書類がいっぱい、畳んでいない洗濯物の山から洋服を探す日々。そんな私でも整理収納アドバイザーの資格を取った事がきっかけで、片付けられられるようになりました。以前の私と同じように片付けが苦手な方の力になりたいと思い、片付けの仕事をしています。
厚生労働省の発表した『平成28年版厚生労働白書』によると1950年時点で総人口の5%に満たなかった高齢化率(65歳以上人口割合)は、2015年には26.7%まで増えています。平成28年時点で算出されていた予想によると「2060年には約2.5人に1人が65歳以上の高齢者になる」とされています。
また、厚生労働省が行った別の調査により発表された『令和3年版高齢社会白書(全体版)』によると、2000年には300万人超だった65歳以上の一人暮らしの数は2020年にはすでに700万人を超えており、2040年には900万人に迫ると予想されています。つまり高齢者の一人暮らしも急激に増加しているのです。
これは少子高齢化に加え、核家族化、生涯未婚率の増加、都市部への若年世帯の集中など様々な原因がありますが、これにより孤独死問題も年々増加しています。
都市部だけでなく、過疎化が進むことで地方では盛んだったはずの地域コミュニティも薄れ、「お隣は空き家になっている」といったことも珍しくなくなってきました。
さらにコロナウイルス蔓延の影響を受け、感染リスクを減らすため「介護予防」として行われていたデイサービスなどの利用者も減っています。高齢者が社会と関わる機会が減少する一方で、運動量の低下などから要介護になってしまう高齢者人口の増加も考えられます。
増加の一途を辿る孤独死問題ですが、これはつまり他人事ではないということです。自分の親や兄弟、親戚、また自分自身に起こり得る問題だといえます。
では実際に自分の親戚が孤独死をしてしまった場合、どのような対応が必要になるのでしょうか。遺産の相続などはどうなるのか。次の章からはこれらについて詳しくご説明していきます。
まず大切なのは相続人が誰になるかということです。様々な手続きなどを行うにしても相続人でなければできないことが多く、最初に特定する必要があります。
亡くなった方の配偶者(夫・妻)は常に相続人となります。続いては以下の通りです。
・子(配偶者のいる・いないに関わらず相続人になる)
・孫(子が死亡、相続欠格・排除の場合に相続人になる:代襲相続)
・父母(第一順位の子や孫がいなかった場合に相続人になる)
・祖父母(父母が死亡、相続欠格・排除の場合に相続人になる:代襲相続)
・兄弟姉妹(第二順位の父母や祖父母がいなかった場合に相続人になる)
・甥姪(兄弟姉妹が死亡、相続欠格・排除の場合に相続人になる:代襲相続)
故人と連絡を取っていなかった間に結婚や離婚、また子供が生まれていたということも考えられます。そのため故人が死亡したという事実が分かる戸籍謄本(除籍謄本)を基に、出生から死亡までの全ての戸籍を集める必要があります。全てを揃えなければ、兄弟の数、配偶者の有無、子供や孫の有無などが分からないからです。
配偶者や子供がいないと証明された場合には、両親や祖父母の戸籍も出生から死亡まで集めます。これは、両親や祖父母が亡くなっている場合で、両親に離婚歴があれば、もしかしたら義理の兄弟姉妹がいる可能性があるからです。義理の兄弟姉妹も相続人になる可能性があるので調べなければいけません。
特に孤独死をされた場合は、把握していなかったけれど子供がいたなど、相続関係が変わってくることも有り得ます。ですので、相続人が確定するまでは故人の財産に手を付けてはいけません。
不動産の名義変更など、様々な手続きを行うにあたって、これらの戸籍関係は必ず必要になります。
自分が相続人だと分かった場合に、次にすることは相続財産を調べることです。というのも、相続するのか相続放棄するのかを判断するためにもその情報が必要だからです。相続財産は全てがプラスのものとは限りません。負債(借金、ローン、借入)などマイナスの財産もあります。そして、もし相続放棄する場合には故人が亡くなったと連絡を受けた日から3カ月以内に放棄手続きをしなければならず、もしその間に良かれと思って電気や水道の解約、家賃の未納分の支払いなどを行ってしまった場合「相続の意志がある」と取られ、相続放棄できなくなることがあるのです。
相続放棄については第5章で詳しくご説明しますので、この章では相続財産をどのように調べるのかをご紹介します。
まず故人が孤独死された場合、亡くなってすぐに発見されるケースは稀です。ほとんどの場合が近所の方や管理人などが、本人と連絡が取れないことを不審に思い、警察に連絡し確認してもらい発見されるという流れです。病院での死亡以外は事故、自殺、殺人の判断が必要なため警察の立ち入り調査が行われます。その際に重要な遺留品として銀行の通帳や年金手帳、現金、免許証などは持ち帰って保管されているので、遺体の引き取りと併せて受け取ります。その他の保険証書や株券、賃貸借契約書などは自分で探す必要があります。
故人の住んでいた部屋を探索し、保険証書や株券、賃貸借契約書を見つけだすのはなかなか困難ですが、根気強く探さなければいけません。保険や証券であれば保険会社や証券会社からお知らせや報告書などの封書が届いていることもありますのでポストの中の郵便物も探してみましょう。
相続を行うことを前提にしているなら遺品整理業者に依頼して、遺品整理とともに重要書類の探索を任せるのも良いでしょう。しかし、もし相続放棄を検討しているのであれば遺品整理は行ってはいけません。
マイナスの財産には借金、ローン、借入、クレジットカードの未払い分などがあります。これらを把握するには郵便物やカード類を調べるのが良いでしょう。郵便で毎月の支払明細が届いていたり、借入専用のカードがあったり、通帳の履歴に定期的な引き落としが記載されていればそれを調べます。すぐに問い合わせを行い、本人の死亡を伝えるとともに、あとどれだけの残債があるのか確認しましょう。
また「信用情報機関」に開示請求して、故人の借金を調べる方法もあります。「信用情報機関」とは個人が金融機関などからお金を借りた際に、その借金の履歴を記録しておくための機関です。金融機関やクレジットカード会社などが、融資や新規のカード申し込みを受けたときに「信用情報機関」の履歴照会を行い、その人物が信用に値するのか、きちんと借りたものを返しているのかを確認します。
国内には3つの信用情報機関(一般社団法人全国銀行協会(全国銀行個人信用情報センター:KSC)、株式会社シー・アイ・シー(CIC)、株式会社日本信用情報機関(JICC))があり、合法的な金融機関やクレジットカード会社、消費者金融であればいずれかに必ず加入しているはずなので、問い合わせを行えば借金の有無や借りた先の業者名も分かります。情報開示請求ができるのは本人、法定代理人、法定相続人などです。相続の場合は、本人が亡くなっていること、自分が相続人であることを証明するため、戸籍謄本、除籍謄本などが必要になります。
不動産の登記事項証明書には借金の担保として抵当権や根抵当権、質権が設定されている場合があります。手数料はかかりますが、不動産の登記事項証明書は登記所や法務局の証明サービスセンターの窓口で申請する、または郵送やインターネットでの交付請求を行うことができます。登記内容の確認だけであればこちらも有料にはなりますが、「登記情報提供サービス」を利用すればインターネットで情報を見ることができます。
情報の開示までに最長で1カ月程かかることもあるので相続放棄を考えている場合にはできるだけ早く申請を行うようにしましょう。
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相続財産を調べ、相続すると決めた場合に次に行うのは故人の家の処分です。賃貸だった場合には家賃や共益費などが発生しているので、速やかに退去手続きをしましょう。その際、故人の発見が遅れ部屋の状態がひどく荒れているようなら原状回復のために特殊清掃が必要になります。特殊清掃の費用は賃貸の連帯保証人が第一に費用負担する責任がありますが、保証人が他界しているような場合には相続人が負担しなければいけません。また、退去が遅れて、数カ月分余分に家賃がかかってしまうようなら、遺品整理業者などに任せてスピーディーに退去するほうが良いかもしれません。
故人の持ち家だった場合には、相続人の誰かが住むのか、売却するのかを決めます。売却するなら故人の名義から相続人の誰かの名前に名義変更する必要があります。相続人が複数おられる場合は代表者を決めるか、遺産分割協議書を作成します。孤独死の場合は物件の売却の際に「事故物件」としての告知義務が生じることになるので、相場よりも値段が下がる上に売却は難しくなるようです。
相続人が一人の場合は必要ありませんが、二人以上の場合には「遺産分割協議書」の作成をおすすめします。というのも、「誰が、何を、どれだけ相続するか」を話し合い、明確に記すことで相続人間でのトラブルを防げるからです。また、手続きによっては提出を求められる場合もあります。
相続しないと決めた場合は相続放棄の手続きをする必要があり、「家庭裁判所での相続放棄」と「遺産分割協議書での相続放棄」の二つの方法があります。それぞれの特徴をご紹介します。
法的にも相続人でなくなるための手続きです。第三者や対外的にも「相続人ではない」と主張できるので、被相続人(故人)に借金や借入などの負債がある場合、その負債を負わないためにはこちらの手続きをしなければいけません。
こちらは相続人間で話し合った結果、「自分は相続しないと合意した」ということです。法的な手続きを取ったわけではないので第三者や対外的には相続人であることに変わりありません。
第3章でも触れましたが、財産放棄するには故人が亡くなってから3カ月以内(亡くなったのを知らなかった場合には、知らせを受け、そのことを知った日から3カ月以内)に手続きをしなければいけません。財産放棄するかどうかを決めるにも、相続人の特定や債務調査などが必要で、それらを調べるのにも時間がかかってしまいます。また相続すると決めた場合にも葬儀の手配や遺品整理、特殊清掃、家の処分、遺産分割などやるべきことは多々あります。故人が亡くなったことを知った際には、できるだけ速やかに行動を起こす必要があるといえるでしょう。
相続放棄する場合は前述の通り、基本的に手続きは何もしないほうが良いのですが、生命保険の死亡保険金受取人になっている場合の手続きは行えます。保険契約に伴う死亡保険金は、その他の財産とは違い指定された受取人に支払われるものだからです。これは受取人個人の財産になるので相続人でなくなったとしても受け取ることは可能です。
また同じような性質のものとして、遺族年金も遺産分割の対象外なので財産放棄していても受け取ることができます。
いかがでしたでしょうか。意外とすべきことがたくさんあって大変だということがお分かりいただけたかと思います。
要点をまとめると「まずは3カ月以内に相続人の特定と債務調査をする」「相続する場合、相続人が複数名いるなら遺産分割協議書を作成する」「相続放棄する場合には家庭裁判所にて相続放棄手続きを行い、遺品整理を含め何も触らない、その他の手続きもしない」です。
なかなか一人ではままならない、といった場合にはこういった調査や手続きを代行してくれる法律家や専門サービスなどもあります。困ったときは相談すると良いでしょう。